〜Long and Winding Road〜 00.6.12〜13 五輪代表候補合宿見学

誰に何と言われようと私はやっぱりこの姿を見ることに人一倍こだわっていたのだと。
そのことを確信した2日間。いや、そのことを確かめるための2日間だったという方が正確かも・・・。

○6月12日○

フル代表がモロッコからの遠征の後に宮城でのキリンカップと続いた連戦から週末の横国でのキリンカップまで
束の間の休息を取っている間に、そのフル代表には入っていないメンバーで五輪の候補合宿が行われるという発表がありました。

メンバー発表の当日その中にあった「金古聖司」の文字。
1年4ヶ月近い空白からまた金古君がこの場所へ戻ってくるということを示す文字。

どうしてもその姿を見たいと思っていた私は色々問い合わせましたが、非公開なので場所も時間も教えられませんの一点張り。
横浜だということだけは解っていたので、横国だったらどうしようもないと考え、いちかばちかで三ッ沢に向かうことにしたのです。
三ッ沢球技場なら隙間から少しでも覗くことはできるし、もしかしたら公開してくれるかもという万に一つの可能性に賭けました。
結局見ることはできなくても、後から見ることができたと聞いたら死ぬほど後悔することに比べれば大した事はない。そう思ったのです。

この日ご一緒してくださったお連れ様と三ッ沢に着くと警備の人の姿が見え、ここで練習があることを確信します。
しかも記者らしき人の流れを見てみると、皆球技場ではなく陸上競技場の方へと向かっています。
これがいかにラッキーなことかを三ッ沢が解らない方の為に説明すると、
三ッ沢球技場は四方を囲まれており、4隅からぎりぎりグラウンドが見えるだけなのですが、
陸上競技場の方はバックスタンド側には柵があるだけで、そこから中は丸見えなのです。

今日ほど自分の無鉄砲な計画性に賛辞を投げかけたことはありません!
柵の所に傘をかけて、メモ帳も準備して大雨ながらも万全の体制で選手が着くのを待ちます。

3時45分。選手を乗せたバスが到着し、選手がばらばらと競技場に入ってきました。
一番後でスタッフの方と話しながら悠々と歩いてくるのはツネさん。こんなところでもキャプテンっぽい風格を感じさせます。
選手が着いたということで報道陣の人もたくさんやってきたのですが、非公開ということで私たちと同じ柵のところから覗きます。
むしろ最初から場所を取っていた私たちの方がいい場所だったのには、ちょっとおかしな気分になってしまいました。

メインスタンドの下にあるロッカーで着替えを済ませた選手からグラウンドに飛び出してきます。
すごい勢いで真っ先に出て来たのは小野君と本山君。ボールを抱えるとスタッフの方を一人交えて早速パス練を始めました。
徐々に皆が出てきて思い思いにアップを始めます。丸見えとは言え、陸上トラックも観客席も挟むので選手のいる位置は遠く
よりによって双眼鏡を忘れた私はなかなかメンバーを把握することができませんでした。
そんな状況でお連れ様の望遠レンズを頼りに解読したビブス分けのメンバーは

 緑:宮本・小笠原・高原・酒井・西谷・本山・遠藤・南
 赤:西・古賀・北島・藤本・平山・福田・石井
 無:小野・金古・水谷・手島・小島・平瀬・大野

最初はグラウンド半面に全員が入って、3つのボールで各々のチームで入り乱れてのパス交換。
それを軽いアップにして5分くらいすると、今度は1チームずつトルシエがいる方に呼ばれていきます。
残った2チームは大きな鳥かご。呼ばれた側は半分に分かれてプレスのかけ方を指導されていました。

雨が降りしきる中大きな声が上がっています。主税君や伸二君辺りの声でしょうか?
見ている私たちには楽しい光景でも、彼らにしてみれば残り少ないアピールの場でしかないのですから・・・。

全員が1回集合して、ピッチの端から端まで歩いて軽いクールダウンとストレッチ。
雨で足場が悪いのでしょう。何回か足元を取られてしまう選手がいたのが気になります。
怪我だけはしないで欲しい。そう強く思うのはやはり彼が今この場にいるから?

今度は赤ビブス組が大きく輪を作り、ビブス無し組が中に入り鳥かごを行います。
この時中は必ず2タッチでボールを回し、外にいるメンツはそれを奪おうとします。
どうやってプレスをかけて、どうやってボールを奪っていくのかということをトルシエが大きなアクションで説明します。

「カネコ!!カネコ!!」

奪いかたの見本を見せる時に大きな声で呼ばれて、見本に使われていたのは金古君でした。
去年2月のブルキナファソでの怪我以来、初めて代表に復帰した金古君。
Wユースの準優勝の時トルシエ監督は「金古にこの成績を捧げます」とまで言わしめた程のお気に入りでもあります。
五輪合宿にも同じく負傷していた伸二君と共に「ファミリーだから」とミーティングにだけ呼ばれていました。

雨が徐々に強くなる中、ローテーションで3組を回しながらこの練習は続きます。
GKの二人はずっと別にキャッチングの練習をしていました。

この次はゴール前でパスを回し、最後にシュートまで持って行く練習です。
パスは必ず1タッチで回し、4人経由した後に5人目がシュートを打つのですが、DFがいないにも関わらず最初のうちは殆ど枠に飛びません。
皆黙々とシュート練習をこなしていきます。徐々に枠を捕らえる率も高くなってきたでしょうか?

金古君のナイスシュートに喜んでみたり、その直後の手島君のシュートの宇宙開発っぷりにずっこけてみたりと忙しい私たち。
確かにシュートの精度も良くないのですが、出すパスの精度も余り良くなくて一抹の不安を感じさせます。
この練習を15分程行うと全員でボールを拾い、軽くジョギングしつつ体をほぐして集合します。

今度は全体を分けて戦術練習へと移ります。
まずMF全体を2つに分けます。ビブス組はボランチに遠藤君・右SHに酒井君・右OHに小笠原君・左OHに小野君・左SHに西谷君。
ビブス無し組はボランチに石井君・右SHに西君・右OH大野君・左OHに藤本君・左SHに平山君です。
ぱっと見て思ったことはビブス組の中盤は左SHの西谷君を除くと全てナイジェリアWユース組だということ。
やはり一番トルシエの戦術に接しているメンバーが固まっているだけあって、ボール回しが非常にスムーズですし
お互いのオーバーラップなども積極的で、見ているこっちがわくわくしてしまいます。
私があの時のメンバーに思い入れが深いこともその一因ではないかと思われますが・・・。

FWは平瀬・小島、北島・福田、高原、本山の3組に分かれて交互にMF組からのパスを受ける組と守備に回る組に入ります。
DFは宮本・山口・古賀・手島・金古の5人がぐるぐるとまわって3人ずつ入るのですが、この練習ではDFの出番は殆ど無く
5人とも少し手持ちぶさたな様子でした。
トルシエの練習は今までは比較的守備の練習に割かれることが多かったようなので、こういった練習は珍しかったのかもしれません。

DFのこのメンバーを見て私が勝手に期待してしまっていたのは“ヒガシな3バック”を見ること・・・。
古賀・手島・金古とヒガシの3代連続したキャプテンがこの合宿には選出されているのです。
ほんの何回かでしたが、手島君を真ん中に左に金古、右に古賀という3バックを見た時にこちらが感傷に浸ってしまいました。
その3人が揃ったから何だという訳ではないですし、本人たちは殆ど意識してないのだと思いますけど・・・。

全体の練習としては、中盤が外にボールを開いて外の選手はボランチに戻しながら前に走る。
その外の選手を更にOHのメンバーが更に外から追い越していく。単発の攻撃ではなく、波状攻撃になるような練習でした。
皆基本的に最初に指示されたポジションから変更することはないのですが、
本山君だけは左SH・左OH・FWと3ヶ所を指示されて、どれも無難にこなしていたことが印象的でした。
トルシエの練習を見ていると、ユーティリティーな選手を重用しているのだということが良く解ります。

遠藤君から出たパスを受けて右サイドを走る酒井君。その更に外を走っていく小笠原君に出たボールは1トラップの後に
ボランチの位置から前に飛び出していた遠藤君の足元にぴったりと落ち、振りぬかれた遠藤君の右足からボールは一直線にゴールへと。
こんな攻撃を本番の試合でも見てみたい。つい1年以上前の灼熱のアフリカの地での映像が脳裏を横切ります。

トルシエの怒鳴り声も何度も響き、その度に側にいたマスコミのカメラから激しいシャッター音が響きます。
「あれが小野だよな?」「こんな遠かったら選手なんて誰が誰だか全然わかんねえよ」
そんな愚痴をこぼすマスコミの人に何度
「いや、その選手は大野君ですって」「いや、藤本君じゃなくて西谷君だと思うんですけど」
と突っ込みを入れようと思ったことか(苦笑)私の取ったメモでよければ紅白戦のメンバー構成も教えてあげたかったですよ・・・。

30分以上もこの戦術確認に時間を割き、もう辺りも暗くなり夏とは言えこの豪雨でいい加減見ている方も辛くなってきた5時半過ぎ。
ようやく練習が終了となり、選手はグラウンドの陸上トラックを走り出しクールダウンということになったようです。
本山君は手島君と頭をはたいたり、にこにこと笑って話したりと一通りじゃれた後に小笠原君を挟んで小野君とハイタッチ。
小笠原君の肩を二人で慰めるようにけらけらと笑いながら叩いたりして相変わらずご機嫌です。
金古君は高原君とずっとおしゃべり。結構この二人も昔から仲良いんですよね。

ロッカーに引き上げていく選手を見ながら、明日はいったいいつから練習するんだろうと思いを馳せてしまいました。
どうやら次の日も片道3時間以上かけて横浜まで来ることにしたようです・・・。

○6月13日○

前日マスコミの方に「明日の練習は何時からかご存知ですか?」と聞いてみたところ
「いや、非公開の練習なんで自分たちも協会からは何も聞いてないんです。今からホテルで選手に聞いてみます」
と言われてしまい、さっぱり何時からか解りませんでした。
また三ッ沢でやるという確信も無かったのですが、この日の午後には解散ということで午前にやるだろうと9時過ぎに三ッ沢に到着。
選手もマスコミもかげも形も見えなかったのですが、ただ一ヶ所だけテレビのクルーが場所取りをしてあって
何時からかは解らないけれどここで今日練習をするのであろうことだけは確信しました。

座ることもできないので、昨日と同じようなポジションをキープしたままひたすら本日のお連れ様と立ち話をしつつ時間をつぶします。
すると1時間以上経ったところでぽつぽつとマスコミの方たちが登場して、
「今日は10時半からだってよ。いったい君たち何時から待ってるの?9時?!すごいねえ。よくやるねえ」
私たちだって最初から10時半だって知っていたら10時半に来ましたよ・・・。

10時半に少し遅刻して選手のバスが到着しました。昨日と同じように代表ジャージでロッカーまで選手が向かいます。
その頃にはマスコミの方たちが昨日以上に溢れており、私とお連れ様の間の隙間にも某スポーツ新聞のカメラマンさんが入ってきて
ものすごく大きな望遠カメラを構えており、少しでも頭を動かすとがつがつとぶつかってしまいます。
思わず「痛い!」と言ってしまった私に対して「あ、ごめんね、痛かったら痛いって言ってね」とのこと。
いや、そういう問題じゃないんですけど・・・。

ロッカールームからは昨日と同じように小野君と本山君が真っ先に飛び出してきて、スタッフからボールをもらうとパス練を始めます。
その後続々と出てきた順番に軽くパス練をした後に、ビブスが配られて2チームに別れます。
ビブス組が小笠原・古賀・北島・水谷・大野・西谷・高原・西・宮本・酒井。
ビブス無し組が南・手島・金古・山口・遠藤・石井・小野・藤本・本山・平山・平瀬・小島・福田。

ピッチの半分を使って同じ組同士でパスを回しています。動き回ってスペースを作っていくことがテーマのようです。
この合宿からキリンカップに5人引き上げるとトルシエが公言しているだけあって、積極的にアピールする選手が目立ちます。
こういう姿勢をトルシエは見ているのだということが解りました。

今度はGK以外全員でビブス組VSビブス無しで大きな鳥かごが始まります。
中に入った方はボールを持っている側にすばやくプレスをかけていき、外にいる方は早めにボールを回していきます。
本山君がパスを貰おうと大きな声を出し、手をあげている姿がこちらからも良く解ります。
外にいる方は2タッチ以内に味方にボールを回さなくてはならないので、貰う側がアピールしていかないといけないのでしょう。

これが終わるとピッチのハーフラインのメインスタンド寄りと、エンドラインのバック寄りに1つずつゴールを運びます。
フィールドプレーヤー側は20人以上がゴールを抱えて楽しそうに和気あいあいと運んでいるのに対して
もう1つのゴールはGKの2人とコーチの4人で黙々と運んでいます。余りに偏りすぎですよ(笑)

これも適当に2つのグループに別れて、パスを受けてドリブルからシュート。
2人しかいないGKが大活躍することとなります。
説明をトルシエがしている間に良く分からないのですが、西君がどうやら怒られたらしく罰走させられています。
この様子を見た途端にいきなり周囲のカメラがばしゃばしゃとすごい勢いでシャッターが切られていました。
その間にも奥の方で説明を続けるトルシエ。自分がDFの役になり、見本を見せています。
DFがいることを想定して練習しろという風に言っているのでしょうか??
本山君が見本として呼ばれ、昨日と同じように「カネコ!カネコ!」という声が再び響きます。

この練習でもなかなかボールが枠に飛ばず、見ているこちらが心配になってしまいました。
まだDFもついていない状況からこれではDFがついた時が思いやられる・・・
試合では解らない個々の技術はこういう練習を見た時に本当に良く解るのだと私は思っています。

この練習も全部で20分程。あまり長い練習はこの日は行わないようです。
この直後にフル代表に引き上げられるメンバーが発表になるとあって、アピールしている選手が目立ちました。
終了後にバスの前で何を見るという訳でもなくぼーっとバスを見ていた私たち。
バスに1回乗ったはずの本山君が再びドアから降りてきました。いったどうしたんだろう?と見ていると、
バスの中から窓を開けていた遠藤君と何やら話をした後にバスに向かってOKと指を立てる本山君。
そのままダッシュでピッチの方へ戻って行くと、キリンのジュースが入った段ボール箱を両手で抱えて飛び跳ねながら帰ってきました。
相変わらずの可愛い様子に周囲からため息が漏れ、フラッシュが炊かれます。

シドニーまでは2ヶ月。でも彼らのサッカー人生はまだまだ長いものとなるはず。
シドニーに行ける20人前後のメンバーに入れても入れなくても、大切な物を見つけていって欲しいと思った2日間。

<Fin>

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