記事:“捨てた”鹿島が拾った勝利  No.35
“捨てた”鹿島が拾った勝利
高円宮杯第17回全日本ユース(U−18)選手権

2006年09月23日

 したかな勝利だった。高円宮杯第17回全日本ユース(U−18)選手権大会決勝トーナメント1回戦が22日に行われ、鹿島アントラーズユース(以下、鹿島)は青森山田高校を2−0で下してベスト8入りを決めた。ボール支配率で勝ったのは青森山田だったが、鹿島は前半28分に相手DFの決定的なミスに乗じて先制。その後も押される展開が続いたものの、試合終了間際の後半43分にはカウンター攻撃からFW野林涼がこの日2点目を決め、追いすがる相手を突き放した。守りながらもきっちりと勝利を得た鹿島の勝負強さが際立つ一戦だった。

■第一の選択は「捨てる」

 試合後、「まず、捨てる場所をどこにするか。そこにプライオリティーを置きました」と話したのは、鹿島の河崎淳一監督だった。一般的には、高校チームよりもクラブチームの方が技術レベルは高いと言えるだろうが、例外もある。青森山田はインターハイ(全国高等学校総合体育大会)を制した昨年ほどではないものの、技術が高く速さのある選手をそろえている。4−5−1のフォーメーションから両ウイングが果敢にアタックを仕掛け、早々と相手陣内に押し込んで試合のペースを握った。ウイングがドリブル突破を仕掛け、サイドバックがオーバーラップを試みる。そこへパスをすると見せかけてバイタルエリアのFWに当ててダイレクトプレーでシュートを狙う。修練された攻撃はテンポが速く、ボールを奪われてもスピードを落とさずにチェイスし、次第にボールの支配率を高めていった。
 カウンターに徹しなければならない鹿島が“捨てた”のは、サイドだった。中央の守備を固め、ワイドからボールが集まってくるバイタルエリアのプレスに集中した。センタリングには1人がコースへ飛び込み、ボールにきっちりと競ってセカンドボールをフォロー。相手のプレスが早いために攻撃はなかなかビルドアップできなかったが、押し込まれながらもフリーでシュートを打たれる場面は見られなかった。不満がないわけではないと言うものの、最善の策を採った河崎監督は「流れの中でボールを回されてはいるけれど、こちらも前を向いた状態なら怖くはない。放り込まれても高さなら大丈夫。シュートを打たれても(GKの)前にDFがいる状態。Jのチームとしては恥ずかしいが、こんなサッカーもいい。あれだけサイドで振られたらケアも簡単にはできない。どのみちワイドは使われるんだから、センターバックとボランチにはバイタルエリアでは仕事をさせるなと言った」と、相手の実力を認めた上でサイドの戦場から兵を退き、勝負所を中央に持ち込んだ。



■用意周到
 守備のサッカーには、タフな精神力が必要となる。“このまま守ればいつかは得点できる”と信じなければ、相手の猛攻に最後まで食らいつくことはできない。だから、意図した守備と強いられた守備では、その後の展開が大きく異なる。この日の鹿島は完全に前者だった。「立ち上がりの20分に点を取られなければ、守りのリズムができあがる。そうすれば、相手のどこかに穴が空いて点を取ることができる。押されることには自信がある。90分ではなく(延長戦を含めて)110分のつもりで臨んだ」(河崎監督)という鹿島は、日本クラブユースサッカー選手権大会や関東プリンスリーグで強豪と対戦した経験を生かそうとしていた。また、セットプレーの度に「何をやってくるか分かんねえぞ!」と声を掛け合う鹿島の動きを見ていた青森山田の黒田剛監督は「試合のビデオを見たのか、あるいは研究したのか。うちの(トリッキーな)ショートコーナーも研究されていた」と用意周到な守備に舌を巻いた。

 もちろん、戦術の貫徹は守備面だけにとどまらない。相手DFとGKが致命的な連係ミスを起こした際、鹿島はFW野林がそこへきっちりと詰めていた。相手ボールをインターセプトすると、無人のゴールにシュートを突き刺して先制に成功。「相手はきっちりと守っているから前半は0−0で終わっても良かった。後半になれば相手も出て来なければいけなくなる」(黒田監督)と考えていた青森山田の算段は厳しいものになった。

 後半、青森山田は開始と同時に控えのFW岩崎晃也を投入。それを見た鹿島の河崎監督は「さらに速さか」とつぶやくと、後半21分にMF松崎慎也を投入し、ボランチを3枚置くような形でワイドをケアした。だが、青森山田の猛攻は、まさに疾風怒とうで、とどまるところを知らない。サイドアタックを仕掛けると、ピッチ上の人数が増えているのではないかと錯覚するぐらい、ゴール前に人が飛び込んで来る。MFベロカル・フランクは、ワントラップから得意の左足ボレーをさく裂させたが、なかなかゴールを割ることができない。次々と攻め手を加える青森山田は、後半32分にもFWを交代。
 そして後半39分、“ごつい”体格のDF田嶋達哉の途中出場が告げられようとした時、鹿島のベンチはいち早くその動きに気付いた。元日本代表FWの黒崎久志コーチが「来たぞ、パワープレーだ」と監督、コーチに情報を伝達するほど敏感に相手の動きをとらえていた。「後半はもっと攻撃に枚数をかけて来る。速いのもいるし、デカイのもいる。相手の様子を見ながら対応を考えていた」とは河崎監督の弁。対策は完ぺきだった。直後の後半43分、鹿島は右サイドのカウンターから野林が追加点をマークし、勝敗は決した。3分間のロスタイムも青森山田は集中砲火を浴びせたが、左CKを鹿島のGKにキャッチされると、ついに試合終了の笛が吹かれた。

 先手を“取り”に行った青森山田と、サイドを“捨て”て守備から始めた鹿島の明暗はハッキリと分かれた。鹿島の河崎監督は「育成もあるけれど、どんなサッカーでもいいから勝つことが自信になる。次の名古屋グランパスエイトU18との試合は、J同士でプライドもある。いいサッカーでも負けたらダメ」と、次戦に目を向けたが、その言葉は昨年も今年もポゼッションサッカーで素晴らしい攻撃を見せながら敗れた青森山田には少々染みる言葉だったに違いない。

<了>

写真:貴重な2ゴールを上げた鹿島のFW野林(右)
写真:青森山田の和泉隼を食い止める、鹿島の佐伯大成

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/hs/column/200609/at00010698.html
2006/09/27



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