〜心に花を〜 鹿児島・福岡遠征記2

Act 1.Scene3. <2月25日 ACCアントラーズ対水原三星>

キックオフは午後7時。6時半近くなると選手がピッチに出てきて練習を始めます。
20人近い選手達がグラウンドに広がり、体を軽くほぐしながらパス練習中。

ぱっと目についたのは髪の毛をばっさりと切った相馬さん。
昔のジーコにあこがれて伸ばしてパーマをかけたと言っていましたが、私の周囲での評判は芳しくなく
以前のようにさっぱりとした頭はとても素敵!ぜひこのままでいて欲しいものです(苦笑)

次が鹿児島がご当地でもある平瀬君の更にかけられたパーマ!
移籍してしまった阿部さんを彷彿とさせるパーマに私がつぶやいた言葉は「オースティンパワーズみたい・・・」(爆)
ぱっと見た時に目立つ髪型というのは色々な意味で、特なのか損なのか私には解りませんよ・・・。
ただ平瀬君は高校時代から通じて、この鴨池で一回もゴールを決めたことが無く
(2ヶ月程前に行われた鹿児島ドリームサッカーの時でさえも)この3戦には非常に気合が入っていると聞いていました。

登録の関係で新人選手と移籍選手は出場できないという風に聞いていたのですが、
アップをするメンバーの中に野沢君・羽田君・内田さんの3人の姿が見えます。
後から話を聞いてみるとアマチュア→プロ登録の場合は問題がなく出場できるとのこと。
新人の3人にとってはいい経験になるといいですね。

こんな感じで他の選手はぱっと目に留まるのですが、なぜか金古君の姿がなかなか発見できません。
双眼鏡の設定を必死にあわせてグラウンドを見るのですが、先日の日刊スポーツで「ラガーマンのようだ」と評された
体格の良いあの姿が私の視界に飛び込んでは来ないのです。

不安が最高潮に達したその時、「あ!いた!金古君だ!!」
ゴール前の方でアップする金古君の姿を発見することができました。後は本当にスタメンかどうか・・・。

なかなか増えない観客席を尻目に時間は刻々と過ぎていき
「ここで両チームスターティングメンバーを発表します」とのアナウンスが流れます。
両手を胸の前で握り締め、思いつく限りの神様にお祈りし、目だけは電光掲示板を見つめその一瞬を待ちました。

電光掲示板がぱっと光り、上から5番目に「DF 15 S.KANEKO」という文字が見えます。
本当の本当にJリーガー金古聖司のデビューが決まった瞬間でした。
実際の紅白戦や新聞での報道でいくら「スタメン濃厚」の文字を見ても、安心することはできなかった私。
その文字を見た瞬間にここから第一歩が始まるのだという思いがこみ上げて、少し涙がこぼれそうになりました。
もちろんこの後どれだけ活躍できるかに、彼の今後がかかっているというのは十分に承知しています。
それでもその第一歩を踏み出すことができたという事実への感動はおさえることはできませんでした。

FIFAのテーマが流れ、旗を先頭に両チームの選手が入場してきます。
今日のスタメンはGK高桑、DF名良橋・秋田・相馬・金古、MF本田・ビスマルク・小笠原、FW柳沢・本山・増田。
ここまで監督就任以来ずっと練習してきた4ー3ー3の形の実践デビューです。

キックオフ直前に監督と相馬さんから入念な指示が左のFWに入る本山君に飛んでいます。
中盤では最後までポジションを確認する小笠原君と本田さんの姿が。
そして最終ラインでは最後まで何回も何回も−まるで自分に言い聞かせるかのように−
入念にヘディングの練習を繰り返す金古君の姿がありました。

試合が開始されます。最初のうちはまるでお互い形にならず、中盤でのパスミスとつぶし合いが続きます。
よく「今、鹿島は4ー3ー3のシステムになっている」と言うと「3トップって言っても左右の二人は引き気味なんでしょう?」と
聞かれることが多いのですが、ここまで私が練習や練習試合などを見た限りでは、3人は完全にフラットに前線に並んでおり
下がってパスを受けたり2列目から飛び出したりという感じではありません。
この日も3人は最前線にフラットに並んでおり、中盤から放り込まれたボールを追いかけてはオフサイドという形が非常に目につきました。

9分にPA前からビスマルクのFK。本山君が頭で合わせますが判定はオフサイド。
これが最初に訪れたアントラーズ決定機でしたが、この後なかなかチャンスは訪れません。

14分にひやっとしたのは金古君が中盤からバックパスでぽーんと帰ってきたボールを
高桑さんの「クリア!クリア!」という声が耳に入らなかったのか、胸トラップで高桑さんの方へ落としてしまいます。
そこを狙っていた相手FWに飛び出してこられ、高桑さんが危機一髪ぎりぎりのタイミングでセーブし助かりました。

ここまで見たところ金古君はまだどこかおどおどしてプレーしているように見えます。
1年ぶりの試合でやはりまだ試合勘は戻っていないのでしょう。
相馬さんとかぶってしまったり、秋田さんや高桑さんにポジションを修正される場面が目につきます。
ファンの贔屓目でどうしても優しい目で見てしまうのですが、他の方はひやひやしていたことが容易に想像ができてしまいました。

15分を過ぎた頃から中盤がどんどんすかすかになっていきます。
トップの3人は3人でのポジションチェンジは頻繁に行うものの、べったり前線に張り付いておりパスを引き出す動きはありませんし
1ボランチの本田さんは完全に最終ラインに入ってしまっており、5バックと言ってもよい状態です。
5ー2ー3。そんな風にさえ見えてしまう陣形では、中盤で主導権を握ることなど容易ではありません。

相手が韓国のチームということで、体格も良くあたりも激しいものであるのは解ってはいましたが
33分に私たちの調度目の前でひどい光景が起こりました。
増田さんが激しく当たられて吹っ飛ばされます。抗議のために両チームの選手が集まってきます。
これに対して主審がイエローカードを出そうと準備して、目の前を見ていなかったその時立ち上がろうとした増田さんを
相手チームの選手が思い切り突き飛ばして転ばせたのです。激怒する増田さんとチームの皆と私たち!
イエローどころじゃなくてレッドカードを2枚出したくなるくらいひどいです。
再開した直後に本山君まで後ろから引っかけられて吹っ飛んだ時には、私の理性もちょっと切れかけ・・・。

アジアの主審がひどいのはよく解っていますが、もう少ししっかりしてもらわないと!
私にとっては選手に怪我をされることが一番辛いことなのです。

この後も小笠原君・ビスマルクの2人から前線へボールが出るもののオフサイドだらけ。
終了直前に小笠原君が持って、FWの3人が同時に走り出したと思ったら横パスを出してしまい
チャンスがついえてしまうなど決定機はいつまで経っても訪れることはありませんでした。

まもなく終了と思ったロスタイムの時。水原の#23がPA内から強烈なシュートを放ちます。
どうにかクリアしてCK。このCKがゴール前のフリーの選手へときっちりあわさりヘディングで決められます。
嫌な時間に失点してしまいました・・・。

後半開始早々に本山君が左サイドを2本ほどドリブルで駆け上がりますが、見せ場はそこでほぼ終了。
その後はまた前半と同じような展開で中盤でボールを持ってはオフサイドか、相手に取られるの繰り返し。
なかなかチャンスは巡っては来ません。

9分には右サイドで増田さんがPA付近までドリブル。ノールックで後の名良橋さんにヒールパスを出します。
この増田さんのドリブルも本当に増田さんらしく重いドリブルで素敵でした。

私の個人的な山場はこの直後にやってきました。
小笠原君がPAのすぐ外でドリブルで上がっていくと、たまらず相手が足をかけて止めてしまいFKを得ます。
ビスマルクが蹴ったFKは相手のDFに当たり、左CKを主審が指示します。
ここで金古君が前線までするすると秋田さんと共に上がってきました。

ビスマルクが蹴ったFKはアントの選手と水原の選手の競り合ったところに落ち、
そこでヘディングされたボールはふわっとゴール左にいた金古君の頭へと飛んで行きます。
「行けっ!!!」SS席などということはもう頭からとっくに消え去った私が叫ぶと同時に
金古君の頭に触ったボールは一直線にゴールの中へと吸い込まれて行きました。

決まった!!同点ゴールだ!そう皆が思った−たぶん金古君本人も−ヘディングシュートでしたが
なんと主審がその直前に競り合った段階でアントのファールを取ってしまい、デビュー戦初ゴールは幻と消えてしまいました・・・。

復活を祝う花束を渡すにしても、まずアントラーズがこの試合に勝つこと。
これがこの花束を金古君に喜んでもらえる第1条件だと思っていました。
「チームが勝つこと。無失点で抑えること。自分がゴールを決めることはその後のこと」
高校選手権でディフェンダーでありながらも得点王という快挙を成し遂げた金古君ですが、
彼が強く願っていることは「チームの勝利と無失点」それを知っているだけに、何としてもこの試合は勝って欲しい。
でも無失点がもう駄目になってしまった以上、せめて本人がゴールしていれば喜びも増すはず。
そう願っていたので、本当にこの判定は残念でした。

13分には本山君に替えて平瀬君を投入します。
平瀬君も持ち前のスピードを生かそうと走り回るのですが、いかんせん中盤がこれでは効果的なボールは出てきません。

ピッチサイドでは熊谷さんがアップを終え、ユニフォーム姿になっており呼び審判の方も「#17」という
小笠原君の番号を机の上のボードに出してはいるのですが、いつまで経っても熊谷さんが投入される気配はありません。
いつ投入されるのだろうと見ていると、23分になってようやく投入される雰囲気になりました。
しかもいつのまにかボードの番号は「#14」の増田さんの番号を示していました。

つまり熊谷さんと本田さんのダブルボランチにして、今までのアントラーズの4ー4ー2のシステムに戻すということです。
ここまで不完全燃焼だったという思いが強いのでしょう。
増田さんはピッチから出る時今まではめていた手袋をグラウンドに投げつけ、怒った表情でロッカールームへと足早に去っていきました。

4ー4ー2はやはり選手の皆にとってはなじんでいるやりやすいフォーメーションなのでしょう。
今までよりパスがスムーズに通り、2トップの柳沢君と平瀬君にもボールを引き出す動きが見られます。
こればっかりはまだ監督が合流して2週間です。チームに戦術が浸透しないのも仕方のないことでしょう・・・。

名良橋さんが調子がよく、効果的に上がってきてはいいクロスを上げています。
しかし平瀬君・柳沢君のシュートはことごとく枠の外かGKの正面か・・・。

このままでは本当にまずい。そう思いゴール裏でないことなんてすっかり忘れて大声で声援を送っていたその時でした。
36分に名良橋さんが中盤でボールを持ったまま頑張り、相手をかわしてPA手前まで持ち込みます。
それを左を走ってきた小笠原君にオフサイドぎりぎりでの絶妙のパス。
これでほぼGKと1対1になった小笠原君がきっちりと決めて同点となりました!!
780人という寒い観客動員(しかも初戦のジュビロだけを見て帰った人もたくさんいると思われるので実際は500人程度・・・)
ではありましたが、この瞬間は本当に鴨池が盛り上がりました。

このまま逆転をと必死に祈りを込めましたが、何度かあったチャンスもヘディングがバーの上を越えたり
ゴールポストに当たったりと結局同点のまま試合は終了ということになりました。

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