〜心に花を〜 鹿児島・福岡遠征記8

Act 6.Scene2. <3月1日 東福岡高校サッカー部卒業生追い出し試合>

東福岡高校サッカー部では毎年卒業式の後卒業生チームVS在校生チームで試合をすることが伝統となっています。
今まで私は直接見たことはないのですが、見たことのある方に聞くと大変に楽しいとのこと。
アビスパの練習と渋滞のせいで予定の開始時刻に遅れて到着した私たち。
車をグラウンドの脇に止めてそのままグラウンドに急いで向かいます。

間一髪で私たちは試合開始に間に合ったようです。
グラウンド横のハーフライン辺りのベンチにヒガシの応援サイトの管理人の方たちが勢揃い。皆で観戦します。

ピッチの上にはあのおなじみの紅いユニフォームを着た一団と、"HIGASHI"と銀色の文字で書かれた黒いユニフォームを着た一団。
紅い方が卒業生。黒い方が現役の在校生。どちらも円陣を組んで最後の打ち合わせをしているようでした。

私たちの右には田坂君(昨年度卒業。現在国士館大学所属)が立って、楽しそうに志波先生やコーチとおしゃべり中。
選手権の壮行会にも表れたと聞きますし、とても母校のことが好きなのでしょうね。
ぱっと見た時には平瀬君の様なパーマがかかっていて、一瞬誰なんだか解りませんでしたよ。
どうして皆卒業すると一回はパーマをかけてみたい誘惑にかられて、それに負けるのでしょう・・・(悩)

円陣が解かれて皆がピッチに散っていきます。しかしぱっと見た時に恭平君の姿を見つけることが私にはできませんでした。
観客席から起こった大きな歓声でその謎はすぐに解けました。
普段恭平君が背負う背番号は言わずと知れた#10。隆君が背負うのはヒガシのキャプテンである証明の#4。
しかし今日この日二人はその背番号を交換してこの試合にのぞんできたのですよ!!

つまり普段恭平君が着てるユニを隆君が。隆君が着ているユニを恭平君が着用。
最初は全員ばらばらに適当なユニを着ているのか?とも考えましたが、他の子を見てみるとやっぱりおかしいのはその二人だけ!
もうこの時点で観客席の私たちは爆笑につぐ爆笑の渦に飲み込まれてしまい、お腹を抱えていました。
だって想像してみてください!二人の身長があまりに違うせいで恭平君のユニはぶっかぶかですし、隆君のユニはぴちぴちです。

しかもこの二人ご丁寧にポジションまで交換してくれていました。
恭平君は本来1トップのポジションをこなす寺戸(兄)君と二人でCB。隆君はFWの位置で腰に手を当てて立っています。
これがやりたいがためにユニを交換したんですね。細かい芸が素敵ですよ!(笑)

試合が開始されると恭平君はDFリーダーらしく指を差し、前線に向かって指示を飛ばします。
それはそれは楽しそうで、笑顔が常に耐えません。
現役組の攻撃をカットしてそこからスルーパスを前線の隆君に通そうとするも失敗すると、本気でひざを叩いて悔しがります。
味方に「戻れ!戻れ!」と指示を出しておいて、自分が結局戻りきらずにあたふたして苦笑い。

隆君はと言えばひたすら前線で1トップ気味にじっと張っています。
そう言うと聞こえはいいのですが、味方が守備に回っている時もまるで戻ろうとはせずに
「俺の居場所は今日はここだから」とでも言いたげに腰に手を当てたまま
−これって恭平君の得意なポーズなんですけど、そんなとこまで意識してたんですか?−そこで戦況を笑いながら見ています。

卒業生組はとにかく皆笑顔。今この一時が楽しくてしょうがないというのが全身から伝わってきます。
恭平君はオフサイドを取ることができたのが嬉しいらしく「線審見ろよ!」などと得意げに現役の子に向かって叫んでいました。
淀川君のクロスがゴールラインを割ってしまうと「それじゃ現役と同じだろっ!」更にはそんな野次を飛ばす恭平君。

1本目が終了します。どうやら20分で1本ということの様ですね。隆君はウィンドブレーカーを着こみ、2本目はお休み。
恭平君は今回もCBとして入っていましたが、やはり前目の人間としての血が騒いでしまうのでしょうか?
ボールを持つとするするとドリブルで前線まで上がって行きます。
ギャラリーからも「おおっ!スーパーリベロになれるんじゃない?(笑)」などの歓声が飛びます。

しかしいくら小さいCBとは言え、CKの時にゴールの中でボールを待っているのはどうなんでしょう??
そこでボールをクリアしても無駄ですよ!恭平君!(笑)

CBの位置で現役組の子を止めようとして転がされるとすかさず審判にアピールし、審判もすぐさまファールを取ります。
「恭平ルールだ!」そんなことを言ってまた笑い転げるギャラリーの皆。

しかし現役にゴールを割られてしまうと卒業生組は皆真剣に悔しがっています。
こういう試合で、ポジションもめちゃくちゃとはいえやはり皆負けず嫌いの塊のような子達なんですよね。

3セット目は隆君も戦線に復帰。恭平君はさっき先制されたのが悔しいのでしょうか?
皆が水分補給をしているのに、すぐさま終わらせて一人でボールを持って行き、
センターサークルの辺りでボールに足をかけ皆がやってくるのを待っています。

ここで現役チームには山形辰徳君が1トップで入ります。
お兄さんの恭平君はこのセットはボランチの位置に上がってきてしまっていましたので、
ゴール前での兄弟の攻防を見るという野望はすれ違いに終わってしまいました。

相変わらず隆君はトップの位置に入っているのですが、まるでゴールを決める気配が見られません。
業を煮やした卒業生チームの皆が隆君に集中的にボールを集めて、どうにかして隆君にゴールを決めさせようとするのですが
本人はボールを受けては現役を抜こうとしてボールを奪われるの繰り返し!
ドリブルをしかけて新キャプテンである吉田君に止められ「ウォーッ!!」と空に向かって吠えていました(笑)

ここで卒業生チームが同点に追いつくと恭平君大喜び!
ベンチで見ている森重コーチに向かって「シゲさん!同点ですよ!同点!」とアピール。
ここで一気に突き放そうと中盤から隆君にスルーパスを出すもオフサイドの判定には、「オフサイド言いよんの!」と不満一杯。
しかも現役組にゴールを決められると、ついにこれでは駄目と見切ったらしく隆君をボランチの位置まで下げてしまいます。

私の中での恭平君はお正月、あの千葉会場での厳しいそしてたくさんの物を背負った恭平君。
その恭平君のままでイメージが止まっていました。
当り前のことなのかもしれませんが、こうして2年生の頃の様に無邪気にはしゃぐ恭平君の姿を見て
やっと私の中で何か呪縛が一つ解けたのかもしれませんね・・・。

4本目になると卒業生組は更に大きく動いてきます。
まずは森重コーチが上下に黒いジャージを着て、その上からヒガシの紅いユニフォームも着込んで試合に参戦します。
そのむくむくに着膨れた格好で無事に走ることができるのでしょうか??(笑)

更にはGKの中山君の物であろうジャージをはっと気づくと菅田君が着込んでいます。
ついにはGKまで本職じゃない人間を配置することになったのですね!!(爆笑)

ここまで卒業生の皆は交代で試合に出ているのですが、なぜか恭平君だけは4本目も引っ込む様子を見せません。
大丈夫なんでしょうか?相当疲れてる様に傍目には見えるのですが、やっぱり負けたままじゃ引き下がれませんか??(笑)

GKが本職ではないことを受けてかここでついに隆君が本職のCBに戻り、寺戸君がFWの位置に入ります。
菅田君はさすがに不安なのかうろうろとしていましたが、とりあえずシュートを一本止めてほっとした様子。
でもゴールキックは右の野球部のグラウンドの方に向かってしまう失敗キック(笑)

隆君と寺戸君は気づけばトップにいたり最終ラインにいたりと頻繁にポジションを交換しています。
前後でそんな大きいポジションチェンジするフォーメーション初めて見ましたよ!(笑)

更には寺戸君が現役ゴールの前で大きなチャンスを得てシュートするもキーパーにはじかれ、
跳ね返って来たボールをまたシュートもそれも駄目。
「ここまで来てもまだ入らない。あれやからPK外すんや!」そんなきつい野次が志波先生から飛びます(苦笑)
(解説:3年連続選手権で1トップを張った寺戸君ですが、選手権でのゴールはゼロ。
     この前の選手権ではPKを蹴りましたが、それも失敗に終わってしまっていたのです)

現役組に追いつくことができないまま4本目も終了。
ぱっと見るとゴールのところで菅田君に替わり新しく黄色いGKユニを着込んでいる人がいます。
そう、恭平君がGKユニに手を伸ばしていたのです!!
中山君のGKユニは今までの隆君のユニどころではなく大きいユニなんですよ!!
パンツのすそは大袈裟ではなくひざ下10cmくらいはあって、上の肩幅も全然あっていません(爆笑)
紅いストッキングはそのままに上下に黄色のGKユニをまとった恭平君は本日のクライマックスとして最高のものでした。

自分の姿にご満悦の恭平君はバーからぶら下がってやる気まんまん。
"二島の山猿" 中学時代の恩師にそう呼ばれたその名前がこの時ほど似合うと思ったことはありません!
ゴールマウスの前でキーパーグラブの感触を確かめるようにぱんぱんと手を叩き、
後輩にシュートをするように命じてそれを止めては大笑い。

練習も終了し、他の皆がグラウンドに出てくるのを確認して「さあ、来い」とばかりにゴールに立ちはだかった恭平君でしたが
はたと自分たち卒業生のゴールが逆だったことに気づいて大慌てで反対側のゴールに一目散(笑)
やっと到着すると何事もなかったかの様に手を大きく広げ、どこからでも打ってこいとアピールしています。

しかし卒業生チームもこんな頼りない急造GKに任せる訳にはいかないと思ったのでしょうか?
ここから好守を連発して恭平君にボールを触る隙を与えません。
すっかり暇な恭平君はぼやーっとゴールポストに寄りかかってみたり、あぐらをかいて座り込んでみたり。
体育座りの格好でゲームを眺めたかと思うとそのままころんと後ろに転がります。
果ては父母の方の写真のリクエストに応えて、ゴールに背を向けてピースしてみたり!

恭平君のキーパー姿のあまりの可愛らしさにすっかり目を奪われていた私たち。
はっと気づくとボールの行方は追っていないわ、「現役!がんばれ〜!シュート!」などという
明らかに間違った方向性の声援を送る始末(苦笑)
そんなことをしていると隆君が左をドリブルしていき、ふわりと浮かせた奇麗なループシュートを決めました!
見てたんですか?あのシュート?恭平君は!(笑)

余りに自分のところにボールが来ないことに苛立ったのか、DFラインの面々に向かって
「いいっちゃ、いいっちゃ、攻めさせろっちゃ!」「来いよ!打たせろ〜!!」
そんなむちゃくちゃ要求するキーパー聞いたことありませんよ!!(爆笑)

ついにやってきた見せ場こと現役組の決定機。
最初に打たれたシュートは見事弾き返した恭平君でしたが、跳ね返りをゴールに流し込まれます。
そのままばったりと地面に倒れ込む恭平君。数秒した後にいきなり立ちあがり
「俺1回目はちゃんと止めた!タイミング悪かったけん!」そんなことを言い訳しています(笑)

そして現役チームがリードしたまま全部で5回のこの追い出し試合のタイムアップを告げるホイッスルが鳴ったのでした。

そのまま部員達は卒業生と現役に別れて半円になって志波先生を囲んでいます。
何か先生が話をなされているのでしょう。皆神妙な顔をしてその話に聞き入っています。
しかしヒガシの皆が神妙な顔をしていたのは本当にこの時だけだった様な気がします。

この後先生から卒業生の皆一人一人に何か記念品を渡しています。紙袋と傘。
「人生は雨降りが多い」
そういう先生からのメッセージが込められている。だから傘なのだと後から教えて頂きました。
「勝つために何をしたか」の本や、数々のインタビューで志波先生のお話を聞く度に
素敵な考え方の方が指導してらっしゃるのだからヒガシは素敵なサッカーをするんだなと。そう思わずにはいられません。

記念品の贈呈が終わると全員で輪になりました。
隆君と恭平君が何やら二人でずっとこそこそと話をしています。−打ち合わせ??−
全員を前にしてキャプテンの最後の仕事なのでしょうか。「ひがしふくおかー!」と隆君が大きな声で叫びます。
しかしただでさえ高い声が叫ぶ途中で裏返ってしまい、すかさず恭平君の「やりなおーし!」という突っ込みが入ります!(笑)

本当なら感動的な場面のはずも彼らにかかっては爆笑の渦。
見ていてもやっていても楽しいサッカー。どこまでもどこまでもヒガシはヒガシ・・・。

あっさりと隆君が締めの言葉を言い、それに続けて部員が全員で声を上げて今日の全日程が終了となりました。
(後で隆君に「あの時何ておっしゃったんですか?」と聞くと「頑張ろうって言っただけですよ」とのことでした)

ここ2年に比べると格段に少ないとは言え、たくさんのファンの子がグラウンドには詰め掛けており
部員の皆が出てくるのを待っていました。
ばらばらと出てくる卒業生の調度真ん中頃に、恭平君と隆君が二人で並んでグラウンドに出てきました。
ファンの子が詰め掛けると恭平君は木の下。隆君はグラウンド側のベンチの所と離れてリクエストに応えます。

はっと気づくと前田君は学ランの前ボタンが全てファンの子に根こそぎ取られてしまっていました。
そういう物にあまり執着心の無い私が呆然と横で見ていると、ボタンだけではなく襟のカラーやベルトまで奪われていきます!

すでに学ランとは呼べない代物になっている隆君の制服。ここで更にファンの人が袖のボタンを貰えないかと交渉しています。
それを快く(?)了承した隆君はボタンを渡そうと、袖に手をかけ一気に引きちぎります。
そのあまりの豪快さに微弱な止め具は耐え切れず、ボタンから外れて地面をころころと落ちてしまいます。

全部で4個ついている袖ボタン。2個目をねだられた時にもうひきちぎる訳にもいかない隆君。
困り果てて「誰かはさみとか持っている人いませんか?」と尋ねます。
普通そんなもの無いはずなのですが、変に物を大量に持ち歩く癖のある私が(苦笑)
「あ、カッターだったらありますよ」とカバンから取り出し、それを隆君に差し出します。

「すいません」そう言いながら受け取った隆君。左手ですそを握って右手で糸を切ろうとします。
そんな無理な体制でうまく切れるわけもなく、「あ!痛っ!」隆君勢い余って自分の指も切ってしまいました。
焦った私が「だ、大丈夫ですか?!」と聞くと「全然大丈夫です」と答えてはくれましたが・・・。

そういう訳で3個目のリクエストを受けた時はカッターを手渡すと「あの、すいません。切ってもらっていいですか?」と。
この辺りで周りの皆は「すーさん、前田君に使われてる」と爆笑だったらしいのですが・・・(苦笑)
最初は隆君がボタンを手で抑えていたのですが、その状況で私が切ると今度は私が隆君の指を豪快に切りかねません(笑)
仕方ないので、「すいません、私が持ちますから手放していいですよ」と言ってさっくり切り落としました。
そしてそのボタンを「私から渡すよりは」と隆君に渡し、本人からファンの子にあげてもらいました。
ファンの子だって私から渡されるのでは嫌でしょうし・・・。

カッターをしまって、そこで私が再びぼーっと様子を眺めていると、
さっきの所から少し離れた木の下で再び隆君がラストの袖ボタンをねだられた様子。
ふっと顔を上げた隆君が発した言葉は「すいませーん!さっきの人!もう一回カッターお願いします!」
周囲が「完全にすーさん隆君の使いっぱしりだよ!」という爆笑に包まれたのは言うまでもありません(笑)
いいんですよ、Jリーガーの使いっぱしりになれるなんて私も光栄ですから!(笑)

ファンサービスが一通り終わったところで隆君は木の下にいる恭平君のところに行きます。
そこで皆の2ショットのリクエストがかかり、荷物の多い隆君ではなく恭平君がシャッターを押しセルフで2ショット。
この二人が一緒にいることを見るのはこれで最後かも。そう思う気持ちが皆あるから、2ショットを頼みたくなるのでしょうか。

結局隆君はボタンもカラーも無い学ランでは恥ずかしかったらしく、学ランを脱ぎお母様にそれを預けセーター姿になっていました。
ぼーっとその様子を見ていると出て来た在校生の子が一人います。
「山形さん!」私の呼びかけに止まってくれたその子は辰徳君でした。
隆君の学ランは辰徳君がお下がりとして貰うとのこと。大事に使ってくださいね。

今日を境に卒業生は皆それぞれの道を歩んで行きます。今日一日最後まで楽しくヒガシらしく終えた様に
ここから巣立って行く皆が楽しく各々の素敵な道を歩んで行けますように。
皆のおかげで今年も私はたくさん素敵な思い出をもらいました。卒業おめでとうございます!これからも頑張ってください!

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